自分語り129 ケータイ小説とライトノベル

2008年9月28日

本稿は本日のミクシィ日記ですが、自分語りに載せられそうなお話にズレていったのでそのまま転載します。

kiki / あたし彼女
★★★☆☆

 うわー、全然日記書いてなかったなぁと思ってログを調べたら最後の日記は2週間前でした。別に大したことはないのに、まるで二ヶ月近くもミクシィを放置していたような気になるのだから中毒みたいなものなのでしょう。趣味のミクシィブックレビューに書こうと思ったまま放置している書籍も二桁を越し、何からレビューしなおそうかなぁと言うのも煩わしくなったのでとりあえず最近で一番印象に残った作品から行きましょう。

 第三回日本ケータイ小説大賞「kiki / あたし彼女」です。何かにつけて「スイーツ(笑)スイーツ(笑)」とやり玉にあげられるケータイ小説系のヒット作の中でも、今回の作品は特別特注驚異強烈な作風で大変に話題になっているようです。

 誰だって一目見て驚く文体です。心理描写情景描写をとことん省いた(ことが「文学」の人々にとことん嫌われる原因になっているのだろうけど)文体が特徴のケータイ小説で、省けるモノを省ききった、なんだか口語ポエムというかそういうところまで行き着いています。

あたし彼女のガイドライン

 2ちゃんねるには既に面白がって「こんなもの俺にも出来るよ」と言わんばかりにあたし彼女をもじったガイドラインが出来ていました。そのぐらいわかりやすい、出来てしまえばいくらでも誰でも真似出来そうなテンプレートです。

 これって音楽の新ジャンル誕生の時にもよくありますよね。ガバキックもオーバードライブアシッドもリバースベースもオートチューンボイスも、誰かが発見してしまえば真似するのは簡単なのです。でもそれを発見するのが何よりも難しい。しかし出来てしまえば本当に簡単な仕組みなので沢山のコピー作品が乱発され、それが出来が良ければいつしかジャンルとして定着していく。今回のこの作風はもしかしたら一発ネタかもしれませんが、この文体はそういう音楽手法の発見と似ているなと思いました。

 但しこの文体だって新発見ではないのかもしれません。初期に「ケータイ小説は文学のニューウェーブか?」という言説が流行った際に、元となる文体に少女小説が直球の影響元として挙がっていました。ということで今作の文体も、特別これが新しいのではなく、もしかしたらモバゲーの一般少女の日記文体にルーツがあったりとか、色々探せば出てくるかもしれませんね。何にせよ「女子高生の生態に詳しいテクノウチさん」には程遠いのでそういうところは私にはよくわかりません。

 あまりにも気になったので実際に429ページ一気に読んでみました。大体30分で読めます。最初は凄く違和感があるんですけど50ページも続けると慣れてしまうんだから人間は凄い。初めの章は如何に主人公の少女がビッチであるかを表現することに終始しているため序盤はためらいますが、最終的にはツンデレ日記なのではないでしょうか。

 心理描写が特別少ないので、それを上手く補うためなのか彼氏の方の視点で全ての文章が一度描写し直されます。面白いかって言われるとよく分からないんですが、すんなり読めてとてもよく出来ているなと思わされました。

 読んでいると、売れているライトノベル作品との共通点が多く驚かされました。最終的な力点は純愛であり、ほとんどどストレートにツンデレと言って良いぐらいにシンプルな人物設定なのですね。ただ人物設定としてのリアリティのベースが当然ながらライトノベルとは全く違って、ライトノベルの読者が「あたし彼女」のアキのような「私は可愛いから男が媚びるのは当然」で「鈍感な彼氏と付き合ってる最中に浮気しまくって百人斬り達成パーティー」をするような少女の純愛が信じられるはずもないし、逆にケータイ小説の読者が「当たり前のように処女」で「指先が触れるだけで顔を赤らめる」ような少女の純愛にリアリティを感じられるとも思えません。

 これは彼氏側の設定もそうですね。ライトノベルの主人公は冴えない主人公が定番ですが、映像化すると特別オシャレな服は着ていないから冴えないと描写されれば冴えない(この表現が読者の反感を買わない素晴らしくギリギリな絶妙さで描写されています)のだけれど、特別ダサイ服も着ていなく清潔感があり、みな綺麗な目をしています。対してケータイ小説はホスト的な主人公が多く、散々女の子を振ってきた挙げ句、最後に主人公の少女への純愛に目覚めたりします。服装も勿論とてもオシャレで、なんというか美しい程に真逆です。「あたし彼女」では彼氏はホストではありませんが、主人公アキが「顔?普通」とする彼氏は、部下から「先輩はカッコイイのに彼女いないなんて勿体ないですよ」と言われており、これだけで基準値の違いが伺えます。これを男が同調して読むのは実際かなり厳しそうです。

 上辺だけ見ればケータイ小説の彼氏に「散々女を振っておいて、おまえそれ純愛じゃないだろ?」ともツッコミを入れられますが、逆に普段異性との接点が少なすぎるライトノベルの主人公を見て「おまえそれ真面目に話を聞いてくれる女なら誰でも良かったんじゃないの?」ともツッコミが入れられるかもしれません。

 だからケータイ小説のカップルは、異性との接点が普段から人並み以上に多いためやたらと「運命」にこだわることになり、逆に普段人並み以下に異性との接点が少ないライトノベルの主人公を強引にヒロインと引き合わせるためやたらと「偶然」出会ったりするのかもしれません。ケータイ小説は現実ベースのリアリティで行くので運命を強調するために流産とかレイプとかが多用されますが、ライトノベルではSFベースのリアリティで行くのでそれこそ空から女の子が降ってきたりします、もはや限度がありません。ライトノベルはSFベースで行けるため、プロットの範囲はかなり広がりますが、ケータイ小説では現実ベースである上に「実話を元にしたフィクション」という相当厳しい縛りが乗っかるため、どうしても似たようなプロットばかりになってしまいます(現段階でレイプされ過ぎ恋人死に過ぎであり、現実ベースのリアリティも越えかけている)。

 しかしそんな両者が最後に行き着くところが同じく純愛であるところが凄く興味深いですよね。ライトノベルのヒット作品ではもう20作近く続いているのに主人公とヒロインが未だにキスもしていない(偶然のアクシデントで抱き合ったり裸を見たりは沢山あるけど)段階で感じる「純愛」と、開始1ページ目で「セックスの相性もいいし」とか言って散々愛のないセックスをしておいてから「マジ恋」に行き着くまでの、ある種真反対の位置から始まる恋愛ですが、結局行き着くところが同じです。

 ライトノベルでは如何に二人の仲が深まったかを詳細に描写している感じですが、反対にケータイ小説では殆ど心理描写を飛ばして「細かいところはあなたの恋愛経験を重ねて読んで下さい」と言った感じに書いてあるんじゃないかなとも思いました。面白い、読み手のベースが違うだけで同じテーマでここまで書き方が変わるんですね。

 ということで「kiki / あたし彼女」でした。ケータイ小説ですので当然全文無料で読めます。ネットニュースを見て、「どんなだろう?」と思った人はすぐに読めるので是非読んでみては如何でしょう。ライトノベルと合わせて読むとこれもまた別の方向でとても面白いです。

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